外壁のモルタルが浮き、コンクリートが剥がれ落ちる「爆裂」が広がっていた9階建てマンションです。落下防止のネットを張って様子を見るしかない状態が数年続いていました。足場を一切組まず、ロープアクセス(無足場工法)で東・西・南の3面すべてを打診し、危険な箇所を補修して、応急措置のネットまで撤去しました。実働33日です。
なぜ長いあいだ手を付けられなかったのか。理由は建物の立地にありました。
足場を組むと、仮設費用だけで300万〜600万円かかる現場
三方が道路に面し、残る一方の隣地はコインパーキングという立地です。道路側だけに足場を立てても仮設費用だけで約300万円、隣地側にも立てれば約600万円——これは同じ建物で実際にお取りになった他社2社の見積書に出ている金額です。加えて、隣地のパーキングを使わせてもらう費用が別途かかる可能性も注記されていました。
しかも、この金額は確定しません。足場を組むまでは外壁に手が届かず、打診も近接目視もできないからです。どこがどれだけ傷んでいるか分からないまま数量を仮置きするしかなく、見積は概算にとどまります。工期が延びれば隣地の使用料も高所作業車の費用も増えます。
「総額がいくらになるか分からないものに、数百万円の仮設費用を先に払う」という構図が、着工をためらわせていました。その間も劣化は進み、外壁が落ちる危険は高まっていきます。
足場とロープアクセスの違い
- 足場・高所作業車 … 仮設だけで数百万円。隣地や道路を借りる費用も要る
- 組み上がるまで外壁に手が届かず、調査ができない
- 調査ができないので数量が固まらず、見積が概算になる
- 設置に日数がかかり、危ない箇所にすぐ手を出せない
- ロープアクセス … 仮設が要らないぶん、その費用を補修そのものに使える
- 初日から外壁に直接手が届く
- 打診で全容を把握してから数量を確定できる
- いちばん危険な箇所を、待たずにその日のうちに処置できる

施工の流れ
- 全面打診調査
東・西・南の3面、あわせて1,116.3㎡を打診棒で叩いて回り、浮きと爆裂の位置をすべて記録しました。ここで数量が確定します。 - 剥離物の撤去
浮いて剥がれかけているモルタルは、落ちてくる前にこちらで叩き落とします。脆くなった部分もハンマー等で削り落とします。 - クラックのVカットとシール充填
ひび割れは表面をなぞるだけでは止まりません。Vの字に溝を切ってから変成シリコンを充填しました。 - 防錆プライマーの塗布
露出した鉄筋には、錆を止めてアルカリ性を回復させるプライマーを塗ります。ここを省くと内側から再び膨らみます。 - 軽量モルタルでの埋め戻し
削り取った欠損部を軽量エポキシ樹脂モルタルで埋め戻し、面を整えました。 - 落下防止ネットの撤去
補修が済んだ範囲から、南面・西面に張られていた落下防止ネット約180㎡を順に外していきました。
体制は職人1名と安全監視員1名の2名です。前面道路を歩く方の頭上で作業するため、道路使用許可を取り、監視員を立てたうえで進めています。
施工前と施工後








やってみて分かったこと
落下防止ネットを外したところ、ネットが張られていた部分の外壁にも補修が必要な箇所が見つかりました。ネットは壁に固定されているため、張られている間はその裏側を調べようがありません。当初の想定に無かった補修が追加で発生しています。
これは足場を組んだ場合でも同じで、ネットを外して初めて分かることです。「最初の見積がそのまま最終金額になるとは限らない」現場が実際にあるということで、だからこそ、着手前にどこまで見えているかが大事になります。
補修跡の色について
今回の工事の目的は、外壁が落ちるのを止めることです。補修跡の色合わせ(近似色塗装)は行っていないため、スタッコ壁に補修跡が残っています。美観まで揃えるには外壁塗装が別途必要です。
そのうえで、外壁全体を覆っていた落下防止ネットが外れたことで、建物の見た目は大きく変わりました。ネットは数年前の外壁落下を受けた応急措置で、外せたこと自体が補修が完了した証拠でもあります。

